大正8年(1919年)ロシアのバレリーナ、エリアナ・パブロバは、
ロシア革命の暴虐を逃れ日本に亡命し、福岡の鶴田バレエ団に身を寄せた。
ここで子供達にバレエを教えて暮らしたが、
大東亜戦争のさなか、日本軍の慰問に訪れていた南京で病没した。
日本のバレエの礎となった女性である。
歳月が流れた。
昭和3×年の鶴田バレエ団の発表会は「くるみ割り人形」だった。
子供達の踊りを、菩薩になったエリアナが彼岸から見つめている。
『鶴田先生があの子にネズミの役を振るのにはわけがあるのよ。
あの子がネズミなら、ほかの子供達が、
「あんなかわいくて、踊りの上手な子がやるんだったら、ネズミは悪い役じゃないんだ、きっと」
と思って、ネズミの役を嫌がらないでしょう。
それが鶴田先生のねらいなのよ。
あの子は自分がどんな役でも、発表会が成功することだけを願って、
一生懸命に踊るのよ。
あの子はそういう、心のきれいな子。
天使のような子。
アーッ スリッパを投げられたワ、
うまくよけるのよー(笑)
あの子、お名前は何だっけ、ルウ---ミ、そう、ルミ子チャン』
ルミ子、少女の季である。
(参考)「くるみ割り人形」は、愛の王国が悪の帝国に攻撃されるという物語で、
悪の帝国の兵隊はネズミの衣装で踊り、最後には主人公クララにスリッパを
投げつけられ成敗される。
出演する子供達は悪役のネズミ役になることを嫌がるし、こども達の親も
わが子がネズミ役を振られないよう指導者に働きかけるという。
指導者は誰をネズミ役にするか、頭を悩ますのである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
2009年6月28日日曜日
2009年6月15日月曜日
ルミ子の祈り by 柘植信彦
百道の砂浜から、兄鷲達が散華された南の空へ、
そして安らぎの靖国の空へ、
ルミ子の父は手を合わせる。
「雲の墓標」に祈るのだ。
ー吾らに変わりて 代わりなき若き命を
南海の千尋の底に沈めし若き勇士たちよ
今日よりは安らけく瞑れー (特攻碑 碑文)
ルミ子は父を見上げる。
ルミ子は父を真似て、砂遊びの小さな手の平を合わせようとする。
手の平から白い砂がほろほろと落ちる。
合掌する父の姿は、ルミ子の幼い心に刻まれた。
二十数年後、映画「白蛇抄」のラストシーンで、
恋人の振り下ろす鉈の刃の下で、
身篭ったルミ子は嬉しそうに手を合わせる。
何に祈っているのか。
渾身の絶唱「湖の祈り」で、ルミ子は手を合わせる。
♪ ただひとつだけの愛に生命を捧げた
あのマリモのように 湖に祈る ♪
ルミ子は何に祈っているのか。
自身も識らないのかもしれない。
ルミ子は、遥かな「雲の墓標」に、
遠い「父」の記憶に、
祈っているのだ。
愛に殉じた人々に。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして安らぎの靖国の空へ、
ルミ子の父は手を合わせる。
「雲の墓標」に祈るのだ。
ー吾らに変わりて 代わりなき若き命を
南海の千尋の底に沈めし若き勇士たちよ
今日よりは安らけく瞑れー (特攻碑 碑文)
ルミ子は父を見上げる。
ルミ子は父を真似て、砂遊びの小さな手の平を合わせようとする。
手の平から白い砂がほろほろと落ちる。
合掌する父の姿は、ルミ子の幼い心に刻まれた。
二十数年後、映画「白蛇抄」のラストシーンで、
恋人の振り下ろす鉈の刃の下で、
身篭ったルミ子は嬉しそうに手を合わせる。
何に祈っているのか。
渾身の絶唱「湖の祈り」で、ルミ子は手を合わせる。
♪ ただひとつだけの愛に生命を捧げた
あのマリモのように 湖に祈る ♪
ルミ子は何に祈っているのか。
自身も識らないのかもしれない。
ルミ子は、遥かな「雲の墓標」に、
遠い「父」の記憶に、
祈っているのだ。
愛に殉じた人々に。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
2009年6月6日土曜日
輝いて ルミ子 by
ルミ子をおんぶして、汐風の当たる板壁の苫家を出る。
夕立が上がった軒陰には、白い朝顔がつぼんでいる。
緩やかな坂道を降りると、百道の砂浜が広がる。
西の夕焼けを見上げると、予科練の訓練基地のあった糸島の空が望まれる。
♪ 若い血潮の予科練の 七つボタンは桜に錨 ♪
砂遊びをするルミ子のそばで、若い父親は「若鷲の歌」を唄った。
予科練の軍歌演習でよく唄った。
上官から声量の豊かさを褒められたことを覚えている。
ルミ子は砂遊びの手を止めて切れ長の瞳を見開く、唄う父を凝視する。
父の歌がルミ子に強い力で吸い込まれるようだ。
ルミ子の唇が、かすかに唄う。
ルミ子の全身が、光を纏うように輝く。
「ルミ子は唄うと輝くのか!」
父は、人が光を放つことがあることを、
再び帰り来ぬ零戦に乗り込む先輩兄鷲達の、
最後の姿で知っていた。
♪ 生命惜しまぬ予科練の 意気の翼は勝利の翼 ♪
父の唄う「若鷲の歌」こそ、ルミ子の音楽性の原型をかたち創ったのである。
このときルミ子は日本歌謡界の至宝となるべく宿命(さだめ)られた。
ルミ子1歳の季である。
夕立が上がった軒陰には、白い朝顔がつぼんでいる。
緩やかな坂道を降りると、百道の砂浜が広がる。
西の夕焼けを見上げると、予科練の訓練基地のあった糸島の空が望まれる。
♪ 若い血潮の予科練の 七つボタンは桜に錨 ♪
砂遊びをするルミ子のそばで、若い父親は「若鷲の歌」を唄った。
予科練の軍歌演習でよく唄った。
上官から声量の豊かさを褒められたことを覚えている。
ルミ子は砂遊びの手を止めて切れ長の瞳を見開く、唄う父を凝視する。
父の歌がルミ子に強い力で吸い込まれるようだ。
ルミ子の唇が、かすかに唄う。
ルミ子の全身が、光を纏うように輝く。
「ルミ子は唄うと輝くのか!」
父は、人が光を放つことがあることを、
再び帰り来ぬ零戦に乗り込む先輩兄鷲達の、
最後の姿で知っていた。
♪ 生命惜しまぬ予科練の 意気の翼は勝利の翼 ♪
父の唄う「若鷲の歌」こそ、ルミ子の音楽性の原型をかたち創ったのである。
このときルミ子は日本歌謡界の至宝となるべく宿命(さだめ)られた。
ルミ子1歳の季である。
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