2009年6月15日月曜日

ルミ子の祈り  by 柘植信彦

百道の砂浜から、兄鷲達が散華された南の空へ、
そして安らぎの靖国の空へ、
ルミ子の父は手を合わせる。
「雲の墓標」に祈るのだ。

ー吾らに変わりて 代わりなき若き命を
 南海の千尋の底に沈めし若き勇士たちよ
 今日よりは安らけく瞑れー    (特攻碑 碑文)

ルミ子は父を見上げる。
ルミ子は父を真似て、砂遊びの小さな手の平を合わせようとする。
手の平から白い砂がほろほろと落ちる。

合掌する父の姿は、ルミ子の幼い心に刻まれた。

二十数年後、映画「白蛇抄」のラストシーンで、
恋人の振り下ろす鉈の刃の下で、
身篭ったルミ子は嬉しそうに手を合わせる。
何に祈っているのか。

渾身の絶唱「湖の祈り」で、ルミ子は手を合わせる。

♪ ただひとつだけの愛に生命を捧げた
  あのマリモのように 湖に祈る ♪

ルミ子は何に祈っているのか。
自身も識らないのかもしれない。

ルミ子は、遥かな「雲の墓標」に、
遠い「父」の記憶に、
祈っているのだ。

愛に殉じた人々に。

   ☆    ☆    ☆    ☆    ☆

0 件のコメント:

コメントを投稿